魅力的な皺と、老いに引導を渡してしまった皺と。どうしてこんなに差がでてしまうかは、もうおわかりね
1980年代のバブル期に活躍した女流作家、森瑤子は現代でいうインフルエンサー。言葉はもちろん、ファッションや生活スタイルなど、生き方そのものに憧れた女性は多かった。時代のアイコンだった彼女は「女と男」を同居させた、いわゆるジェンダーフリーな人。そういう人は、いつの時代もカッコいい。著書『非常識の美学』より抜粋。
最近、某新聞記事でサッカー選手の三浦知良さんを見た。56歳の今も現役でポルトガル2部チームに所属し、若手選手らと一緒に日々練習を重ねているという。
その表情が素敵だった。Jリーグで活躍していたころの若いカズさんの写真もあったが、その時よりも断然カッコいい。
笑い皺だろう。満面の笑みに沿って刻まれた深い皺はとても魅力的で、カズさんの来し方が忍ばれる美しい年輪だった。
日本人は異常に皺を嫌う傾向がある。
体毛もそうだ。最近は、男女とも、皺も毛もない“つるんつるん”を好むという。
人それぞれ好みはあるだろうから、それに意義を唱えるつもりはないけれど、修正や加工はじゅうぶん気をつけたほうがいい。
行きすぎると心身を壊してしまう恐れもある。
誰しも体の作りはどうしようもないし、老いも避けては通れない。
変えられないものは冷静に受け入れて、変えられるところを変えていく。
変えられるところはどこだろうと、頭を賢く使って考えよう。
以前にも書いたが、オードリー・ヘップンバーンは顔のシワを誇りに思っていて、写真の修正を嫌った。
「祖母にとってのシワは年齢と経験、知恵の象徴だった」と、後に孫が語ったそうだ。
森瑤子は訊ねる。
「今、あなたの周りを見まわしてご覧なさい。ちょうどあなたのお母さんにあたる年代の女性たちに、二種類の女がいるのに気がつかない?」
樹でたとえれば、花も実もたわわな樹と、同じ年齢とは思えないほどカサカサな樹と。
どっちが魅力的かしら、と彼女は笑う。
――自分を何の樹に育て上げたいか、イメージしてください。
その樹を育て栄養をあげるのは、お父さんでもお母さんでもなく、あなた自身なのだと。
顔が名刺なら、その皺は肩書きだろう。
今回は「万緑」を紹介。
目に青葉山ほととぎす初鰹……と、思わず口づさんでしまう初夏。字面からも、なんとなく想像がつくでしょう。見わたすかぎり青々と緑が生い茂った景色が「万緑」です。続きは……。
(230525 第842回)