あなたの存在を誰も知らなければ、あなたが消え去っても誰も気づいてくれない
カーヤ・カラス
エストニアの首相カーヤ・カラスの言葉。エストニアはバルト三国のひとつで、人口約130万人、面積は北海道の半分ほどしかない。ロシアは目と鼻の先だ。
第二次世界大戦からソ連崩壊までの約50年間、エストニアはソ連の圧政に苦しんだ。侵略とその後の恐怖政治によって人口の約5分の1を失ったというのだからその悲惨さは言葉に尽くせない。そんな歴史があるからこそ、安全保障に対する意識は高い。
カラス氏はモデル並みの美貌で金髪、弁護士として磨き上げた知識と舌鋒、46歳……とくれば、ルックスは他国の首脳と一線を画す。北欧の首脳には若い女性が多いが、NATO(北大西洋条約機構)の首脳会議でも飛び抜けて目立つ。
ピンクのワンピースに身を包んだカラス氏は、ファッションについて訊かれ、冒頭のように答えた。
ただ自分の好みで服を選んでいるわけではなく、自分たちの存在を知ってもらうため、目に焼き付けてほしくてあえて派手な服装をしているという。小国のトップリーダーの必死の思いが伝わってくる。
そんな彼女はずっとロシアの脅威について警鐘を鳴らしてきた。
「備えがなければ他国の侵略を招く」
「有事が起きてからでは遅すぎる」
いずれも悲惨な歴史を負っているがゆえの危機感である。
こと安全保障となると、当事者ではない人たちの主張が言論空間を賑わすが、カラス氏の言葉は深く、重い。