どうやったら大衆に受けるかと考えながらつくった音楽は、永久に受けない
NHKの番組(NHKアカデミア)で久石譲氏が語った言葉。
この番組は、久石氏がオンライン形式で音楽家の卵たちに講義をするというもの。講義の後、ある学生から「音楽を仕事としてやっていくには大衆を引きつけることが必要だと思いますが、久石さんはどうやって大衆を引きつける音楽を作曲されているのですか」と質問され、次のように回答した。
「あまり一般の人に受けようとは考えない方がいいですね。自分がつくった曲をいちばん最初に聴く人は自分です。そこで納得できてはじめて、その曲を家族や友人・知人に聴かせることができます。その延長に観客がいて、CDなどを買ってくれる人がいます。いわば自分は聴衆のフロントにいるわけです。どうやったら大衆に受けるかと考えながらつくった音楽は永久に受けません」
あまりにも本質を突いた回答に、思わず膝を打ってしまった。
久石譲と聞けば、多くの人がジブリ映画の主題歌をつくった人と連想する。しかし久石氏も断言しているように、彼はミニマリストである。学生時代からミニマル・ミュージックを標榜してきたという。
ミニマル・ミュージックとは、最小のパターン化された音を反復し、音のズレや響きの変化に着目した音楽である。バッハ的であり、禅のイメージに近いともいえる。つまり、壮大なフィナーレや誰もが口ずさめるメロディアスな音楽とは一線を画している。それなのに、多くの人の心に響く映画音楽作曲家として認められている。その源泉は、自分が得意としているミニマル・ミュージックに依拠しているからだというのだ。事実、『風の谷のナウシカ』では、左手の和音を変えず、しつこいくらい繰り返したうえで微妙な変化をつけている。
久石氏はこの番組で「ベートーヴェンはロックだ」と言って、リズムを重視した音楽をたくさんつくったベートーヴェンについて語り、「室内オーケストラはスポーツカーのようでコンテンポラリー音楽に最適。対して大編成のオーケストラはダンプカーのよう」と言って、室内オーケストラの魅力を語った。彼は作曲家であると同時に指揮者でもあるのだ。
大衆に媚びることばかりを考えている芸術は大衆に受け入れてもらえないという持論を笑顔で語る久石さんはじつに魅力的な人だった。