喜びを自分のために曲げるものは翼がある生命を滅ぼすが、通り過ぎる喜びに接吻するものは永遠の日差しに生きる
ウィリアム・ブレーク
イギリスの詩人ブレークの詩の一節。人類初めて、飛行機で大西洋横断を成功させたリンドバーグの夫人、アン・モロウ・リンドバーグの『海からの贈物』で見つけた。
表現がいちいち詩的だが、禅僧に言わせれば「今、この瞬間を生きよ」ということになるだろう。
アン・モロウ・リンドバーグは踊りを例に取り、この詩の真意をこう説明する。
――うまく踊るには、音楽と完全に調子を合わせて、前のステップを長引かせたり、次のステップを急いだりせずに、いつも現在のステップを踏んでいなければならない。どのステップにも完全に乗っていることが、踊り手に時間を快く超越して永遠を垣間見ている感じを与える。
同じことをするにも、心持ちひとつでまったく異なるものになる。
例えば、エクササイズ。体に負荷を与えるのだから、その時は多少の苦痛を覚えるが、「思った通りにきちんと動いてくれる。ありがたい」と思いながら続けると、まったく苦ではなくなる。
それと同じように、どんなにつまらない仕事でも、一つひとつの動作に心を込め、「仕事ができる環境にあることがありがたい」と思えば、労働が舞踏になる(金子光晴は「労働を舞踏へ」と言った)。
通り過ぎる喜びに接吻するのは、まぎれもなく自分である。
(240216 第852回)