あなたは自分の〝固い頭〟の犠牲になってはならない
ウェイン・ダイヤーはアメリカの著述家で、なぜか故渡部昇一氏が若い時分、いくつも翻訳している。私が20歳の頃、友人がこの人の著作にはまっていて、しつこく薦められた記憶がある。いわゆる啓発本の一種といっていい。著者は幼い頃、孤児院で育ったという特異な経歴があることから、独自の人生観を有していたことはまちがいない。
マズローの自己実現をさらに推し進め、一人の人間としていかに生きるかにフォーカスした思想を展開した。
おそらく表掲の言葉は自分を戒める意味でもあったのだろう。独自の思考を構築する過程にあって、もっとも忌避すべきは頑迷固陋に陥ること。
少々大げさにいえば、人間は年齢とともに頑迷になる生き物である。それゆえ社会の老害にもなる。いま、世間を〝震撼〟させているカスハラの多くは老人によるものだそう。自分が生きてきた時代と現代の常識の齟齬に戸惑い、その苛立ちを弱者にぶつけてしまう。本来、年配者は尊敬される存在にならなければいけないが、むしろ害悪となっていることがアンチエイジングの遠因といっていいだろう。
かといって、やみくもに時代の流れに迎合すればいいというものでもない。守るべきものは守り、新来の動きにも意識を向ける。芭蕉はそれを「不易流行」と言った。
とはいえ、その案配が難しいのであるが……。
(240818 第863回)
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