人において最も貴いものは思うこと考えることである
与謝野晶子
明治から昭和初期にかけて活躍した歌人・与謝野晶子。当時タブーであった女性の官能を鮮やかに描いた『みだれ髪』や、軍国主義の風が吹き始めた時代に『君死にたもふことなかれ』を発表するなど、その大胆な創作に世間は喝采をおくり、また嫌悪を示した。
思想家としての晶子の根底にあるのは、自助努力による女性の自立であり、政治的には反共産主義だった。そのため、平塚らいてうとはかなり激しい論争を繰り広げている。一方で、10人以上の子供を産み、筆一本で育てた。
そんな晶子が核に据えていたのが「思うこと」と「考えること」であった。いずれも人間に与えられた特権ともいえる。高尚であり難解でもある。
近年、目が眩むほどのスピードで、考えなくて済む社会になっている。いちいち調べたり考えたりせずとも、少し指を動かせばほとんどの答えを得ることができる。
便利さと引き換えに、人間が失ったものは何だろう?
それを「考える」のも悪くない。失ったのは、生きる歓びという「思い」であると言ったら大げさだろうか?
(241108 第867回)
髙久多樂の新刊『紺碧の将』発売中
https://www.compass-point.jp/book/konpeki.html
本サイトの髙久の連載記事