おかしな形はおかしな形なりに均衡があって、それがみんなにとってしあわせな形ということも、あるんじゃないかなあ。
向田邦子
『父の詫び状』『思い出トランプ』など、市井の人々の心の機微を軽妙な筆致でつづった作品で国民的な人気を得た作家・向田邦子。
その文章や言行、風貌、生活スタイルにあらわれるのは、「平凡な女のしあわせ」を追い求める、自立した、それでいてどこかさびしげな女の姿だった。
長く情を交わした恋人はいたが、結婚は選択せず、たくさんの愛猫とともに暮らした。
飛行機事故で51歳で急逝した後も、その魅力は年を追うごとにいやましていき、彼女を「理想の女性」として信奉する男衆は今も後を絶たない。
たとえばパズルのピースのように、人間が持つ個性はてんでバラバラ。でも、かならずぴたりとくる組み合わせがある。
美しく形を整えた人間ばかりの社会では、ほんとうのしあわせは生まれないのかもしれない。
(130121第50回)