どうでもよいことは流行に従い、 重大なことは道徳に従い、 芸術のことは自分に従う。
小津安二郎
この格言のポイントは、三つの事柄について、ほどよい価値判断のバランスをとることで、人生を大過なくしのぐための知恵を表している点にあると思う。
小津安二郎は映画監督であるから、自分の映画を芸術とみなし、その制作にあたり「自分に従う」のは、あまりにも当然のことである。
そこでこの格言に若干の新味を付与するために、一つの問いかけをするのだ。
それは、「三番目の言葉すなわち『芸術』の扱いについてどう考えるか・・・」という問いかけである。
言い換えるなら、「芸術表現は、自分のみならず、流行や道徳に従った(従わない)表現もあっていいのか」という問いかけだ。
芸術にはたしかに流行はあるかもしれないが、かといってそれに流される陳腐な表現などそもそも芸術ではないという意見。
他方で、その時代の大衆の通念を表現として切り取るという意味で、流行に忠実に従った芸術表現というものもあってよいという意見。
そして、最近、会田誠の個展で賛否両論紛糾しているがごとく、芸術表現そのものに道徳的規律が適用されるのかどうか、というやっかいなケースもある。
自分の思想信条に従った表現なのだから、観る者をして徹底的に不愉快にさせる芸術もあっていいではないか、という問題だ。
考えるほどに答えはでなくなるが、格言の使い方として、時にはこういう遊びもあってよいだろうと思う。
(130225第63回)