君看双眼色、不語似無憂
白隠禅師
「千峯雨霽露光冷(せんぽうあめはれて、ろこうすさまじ)」という大燈国師の句に、白隠禅師が偈をつけた。それが、これだ。
「君看双眼色、不語似無憂(きみみよそうがんのいろ、かたらざればうれいなきににたり)」
良寛上人が書にしたためるほど愛した句としても知られている。
「その目を見てごらんなさい。何も言わなければ憂いなど無いようにみえるだろう」
語らないのではない。語れないほどの深い悲しみがあるからこそ、その瞳は澄みわたり光り輝いているのだ。それは、悲しみの涙を流したあとの輝きである。
人はみな、大なり小なり悲しみを抱えて生きている。その悲しみが大きければ大きいほど人には語れず、じっとひとり堪え忍ぶことになる。そういう人は強くて優しい。人の痛みがわかるから。
ちなみに、上の句は「見渡す限りの山々の草木に、雨上がりの露が光り輝いている」というような意味になる。
それにつづく句であるから、ほんとうは、白隠禅師は禅の世界を表したにちがいない。
この大自然のありようを。
風が吹こうが雨が降ろうが、切り倒されようが踏みにじられようが、自然はなにも言わず、すべてを受け入れている。
その姿は強く、たくましく、美しい。
(151209 第145回)