この世にどんな美があろうとも、結局「正常の美」が最後の美であることを知らねばなりません
柳宗悦
日本各地を訪ね歩き、その地に残る手仕事から生まれる民工芸品を愛した柳宗悦。
哲学者であり思想家でもある彼は、名もない職人たちの手業こそ自然のありようだと、著書『手仕事の日本』の中で賛辞を贈る。
本当の「美」とはなんだろう。
宗悦はこうつづける。
「『正常』というと何か平凡なことのように取られるかもしれませんが、実はこれより深く高い境地はないのであります。
ありがたいことには、健康な性質の品物は、自ずから単純な形を取ることであります」
健康とは、心も体も無事であることであり、いちばん自然で正当な状態のことをいう。
病気やケガをすれば、体は自ずと治癒への活動をはじめるし、どんな物質も力を加えると元に戻ろうとする性質がある。
木の性質を知り尽くした宮大工の手業である木組みを見れば、説明しなくとも一目瞭然だろう。
自然とは、つねに正常を求めているということである。
宗悦は「正常の美」とは「健康の美」のことだという。
持っている性質を生かすことこそ、究極の自然美に近づけるのだ。
(151212第146回)