みずからが自分にとっての、いちばん厳しい先生たれ
グレン・グールド
1982年にこの世を去ったクラシック界の異端児、グレン・グールドは、“希代のバッハ弾き”“エキセントリックなピアニスト”など、数々の異名をとった謎多き演奏家であった。
生前、人嫌いで有名だったグールドから、幸運にもこの言葉を引き出させた日本人ピアニストがいる。
熊本マリ。
カナダでピアニストになるべく研鑽を積んでいた少女が、憧れのグールドに指導を仰ごうと手紙を送ったのだ。返事はなかったものの、偶然にもグールド本人に遭遇し、アシスタントから後ほど連絡を入れるとの約束をとりつけた。そして、電話があった。
「誰かの演奏を判断する資格は、自分にはありません。仮に私があなたに対して、才能の有無を評価したところで、それがいったいどんな意味をもつでしょう。
あなたの将来はあなたがつくるものなのです。自分の才能というものは、あなた自身が一番よく知るべきことなのです。自分自身を信じ、自分の才能をみずから伸ばしてください」
アシスタントは、グールドからのメッセージを伝えた。
ピアニストとなった彼女はいま、この言葉の真意を痛感しているという。
自分は何がしたいのか、どこに向かいたいのかを冷静に見きわめる。
軸になるのは、自分の意思しかないのだと。
(160126 第160回)