今の文化は崩れやすくて、すぐに移り変わってゆくだろう?一番大切なのは、本物であることを示すことだよ
アラン・シャペル
「厨房のダヴィンチ」とも「フランス料理界の巨星」とも呼ばれていたアラン・シャペル。
自国を愛し、生まれ育った土地の農作物や草花が何より好きだった彼の料理は、大胆にして緻密に計算されていたという。作為的であることを嫌い、皿を大地と見立ててか、食材を飾り立てることを嫌った。シャペルは、大自然のありようを一皿に描こうとしたのにちがいない。
人類が作りあげてきた文化は、その時代時代を克明に表す。長く続いたものもあれば、短命で終わったものもある。
伝統文化や芸術作品、思想哲学など、連綿と受け継がれてきたものの共通点は、つねにそこには新しい発見があるということ。何度聞いても、何度見ても、聞くたび見るたびに何かが違う。新鮮な出会いを感じるのだ。
なにも高尚なものばかりがそうなのではない。身の回りにある道具ひとつとっても同じこと。誰もが感じているはずの、本物である証。
それなのになぜ、本物を求めようとしないのか。
文化というのは生きもので、生まれては消え、消えては生まれることを繰り返す。それはそうだろう。どんなに時代が移り変わろうと、文化を生み出すのは人間なのだから。その人間が、本物でなくして何を残せるというのか。
本物とは何か。
シャペルが愛した大自然が、本物であることの答えを教えてくれる。
(160422 第188回)