春になったら芽が出るように、それが光に向かって伸びていくように、魂は成長したがっているのです
少し前にも紹介した作家、梨木香歩の『西の魔女が死んだ』の一節である。
映画にもなっているから内容を知っている人もいるだろう。
学校になじめない中学生の女の子が田舎の祖母の家でしばらく居候することになり、大好きな祖母から生きる術を学んでいくというストーリーだ。自然の中で暮らす知恵は都会人にとって魔法のようなものだと気づく。西の魔女こと少女の祖母が孫に語る言葉は、どれも天からの言葉に聞こえる。
犬も歩けば棒に当たるくらいなのだから、人間、生きていれば壁にぶつかるのはあたりまえだ。
無我夢中で勢いよく走っていればなおさらのこと。ガツンと頭から激突すれば、あまりの痛さにしばらくうずくまってしまうのも当然である。
次は壁があることを確認するだけの余裕をもてればいいのだが……。
「壁にぶつかるのは動いているあかし」と、とりあえず自分で自分を納得させてみるとしよう。
西の魔女はこうも言った。
「魂は身体をもつことによってしか物事を体験できないし、体験によってしか、魂は成長できないんですよ。ですから、この世に生を受けるっていうのは魂にとっては願ってもないビッグチャンスというわけです。成長の機会が与えられたのですから」
目の前に立ちはだかる壁が、見上げるほどの高さであったり頑丈な城壁のようなものだとしたら、それは、もっともっと成長したいと願う魂が引き寄せたてきたものなのかもしれない。
(160629 第210回)