上手くなろうとすることをやめた
安西水丸
2014年に逝去した安西水丸氏は、“下手ウマ”な絵を描くイラストレーターだった。作家の村上春樹をはじめ、有名無名問わず、彼のファンは多い。
特別うまい絵を描くわけでもないのに、彼の作品は魅力的で、どこからみても「安西水丸」と版を押したように個性的だ。
名前は知らなくても、絵を見れば「ああ、これね」と思う人もいるのではないだろうか。
彼の個性的な絵は自分を知ったことによる。
フランスのルーブル美術館でミケランジェロの絵を見たとき、「ああ、自分には無理だ」とあっさり上手くなることをあきらめたという。
幼い頃から絵が好きで、もっと上手くなりたいと思っていのだが、自分の力量を知り、それならと、方向を変えたのだ。
「正確に描くよりも、自分の見えたままに描く。それが他人には別物に見えたとしても堂々としていい。自分の気持ちをあらわすこと、自分のイメージを表すこと、何より楽しんで描くこと」
安西氏のモットーだった。
もっともだと思う。
人生いろいろだが、なにものにもとらわれない安西氏の“下手ウマ”な絵を見るたびに、「上手く生きようとするのをやめよう。自分らしく楽しく生きよう」と思うのだ。
(160811 第224回)