法遠不去(ほうおんさらず)
この一語は、浮山法遠という禅師の逸話として伝えられているものだ。
法遠は、厳令枯淡な人物として知られていた葉県禅師の弟子なのだが、弟子になるまでの修行は、それはそれは人情のかけらもないほど容赦ない仕打ちの連続だったという。
僧侶が寺の玄関先で入門を請うことはよくあることで、一度や二度、追い払われたくらいですごすご帰っていくようでは話にならない。
法遠は、雨の日も風の日も通い詰めた挙げ句、現れた葉県和尚に頭から水をかけられるのだが、他の僧侶たちのように逃げ去ることなく踏みとどまって入門を許される。
しかし、料理係りを務めていたとき、和尚の不在中、飢えに苦しむ仲間のために馳走をつくったことが和尚に知れ、代金の請求と30回の棒打ち、さらには寺から追い出されてしまう。
代金を稼ごうと法遠は町で托鉢をするのだが、せめて近くにと居住していた寺の敷地内での家賃も求められ、それでもめげずにひたすら托鉢をするのだ。
風雨に耐えながら立ち続ける法遠を目にした葉県禅師は、法遠こそ真の参禅者だと言って自らの後継者にしたという話。
あきらめることなく、やめることなく、去ることをしない。
それが「法遠去らず」。
何かを成すこと、道を極めることは言うに及ばず、生きるとは「法遠去らず」に他ならない。
(161010 第244回)