晴れてよし曇りてもよし富士の山 もとの姿は変らざりけり
幕臣、山岡鉄舟が宮中に仕えていた頃に詠んだ歌である。
無私無欲の清廉な生き方を貫き通した鉄舟も、徳川家に仕える身でありながら明治天皇の臣下となったということで、陰口を叩かれることもあったという。自らすすんでの宮仕えではないにせよ、真摯に職務を全うしていたところへのいわれのない誹謗中傷である。さすがの鉄舟も言うに言われぬ胸の内があったにちがいない。禅の心得を反芻し、泰然自若の境地へと達した鉄舟の生き様に学ぶものは多い。
色不異空。空不異色
色即是空。空即是色。
色は空に異ならず。また、空も色に異ならず。
目に見えるあらゆる現象は実態がない。実態はないけれども目に映る。
なんのこっちゃわからん、と思ったあなた。
そう、すべて目に見えるものは、なんのこっちゃわからんのだ。
はらはらと舞う落ち葉を見て美しいと思う人もいれば、道が汚れて困ると思う人もいる。
見えるものは同じでも、感じる心は人それぞれ。
もっと言えば、自分自身であっても、状況や心の状態によって日々の受け止め方は微妙に違ってくる。
自分を含め、すべての現象は関係の仕方によって変化し続ける。
そんな移ろいやすいものに気を取られていても仕方がない。
どんな状況であろうとも、我は我の道をゆくと、どしりと富士の山のように坐していたいものだ。
(161201 第261回)