苦しかったぶん、うれしいですね
稀勢の里
先日の千秋楽の優勝決定戦。日本中が歓喜に湧いた。ケガを押して試合に挑んだ稀勢の里の逆転勝利。表彰式で君が代を聞きながら涙を流す姿に胸を打たれ、涙が滲んだ者も多かっただろう。
稀勢の里は優勝が決まったあとも、さらに練習をしたいのだと言った。恐れ入った。最初から優勝は決まっていたのかもしれない。この意気込みと強靱な精神力の前には、だれも太刀打ちできないだろう。
神々しいまでの男泣きの姿。
その涙の理由。
優勝インタビューで語ったこの言葉がすべてだと思う。
苦しかったのだ。
ほんとうに。
いつ報われるともしれない過酷な練習をやり続ける毎日。
稀勢の里を優勝へ導いた影の立役者でもある弟弟子の髙安は、あまりの厳しい練習に耐えきれず4度も脱走を図ったというが、その厳しさは察するに余りある。
「力士である以上、土俵に上がれるなら、上がるのが僕ら。それしかない」
15歳で入門してから、たった1度の休場に今も悔いを残しているという稀勢の里。
その悔しさが過酷な日々の唯一の支えだったのかもしれない。
苦しみのぶんだけ、うれしさがある。
苦しい体験は、いつか涙をともなった喜びに変わる。
それを信じろと、稀勢の里の涙が教えてくれた。
(170329 第300回)