大勢といるときは一人でいるように、一人でいるときは大勢といるように
吉本隆明
思想家であり作家であった吉本隆明の言葉……だったと思う。
娘である作家のよしもとばななが、子供の頃に父の隆明からそう言われたということを何かの本で読んだことがある。あれは何の本だったろう。心のひだにひっかかっていた。
これぞまさに「市中の山居」。
たとえ市中の人混みにいようと、山の中でひとり心静かにいるような心持ちでいられたら、怖いものなど何もない。
不思議なもので、人というのは雑踏の中でこそ孤独を感じやすい。
一人きりでいるときに感じる孤独よりも、はるかに深く。
「孤独は山になく、街にある」と言ったのは哲学者の三木清だった。
そして「孤独は一人の人間にあるのではなく、大勢の人間の『間』にあるのだ」とも。
孤独と向き合うことは、自分自身と向き合うこと。
孤独を味わえる人は、本当の意味で自分も他人も味わえる人なのだろう。
市中にいても、山居にいても人は常にひとりきり。
それさえわかれば、どこにいても、一番心地いい自分でいることができる。
(170511 第314回)