春の一番いいところは、春が来ることだ
いがらしみきおの漫画、ラッコが主人公の『ぼのぼの』は以前にも紹介したことがある。
なんてことない会話ひとつとっても、ぼのぼのの言葉はあまりに真理をつきすぎていて、思わずうなってしまう。
「春の一番いいところは、春がくること」
これぞまさしく禅の境地ではないか。
色眼鏡で見ることなく、ありのままの姿をありのまま受け入れる。
禅語にもある。
「柳は緑、花は紅、真面目(しんめんもく)」と。
この大自然、大宇宙は、人間の計らいごとなど頓着しない。
損得勘定も一切の煩悩もなく表れた自然の風景こそ、真実であると。
イタリア文学者の須賀敦子は、あらゆる世代はそれぞれの時代を愛すべだきと言った。
この世はすべて生々流転。
めぐる季節は、人の一生と同じ。
その季節、季節を愛でることで人生は輝きを増す。
にもかかわらず、春がきて、夏がきて、秋がすぎると冬になるという自然の摂理にすら、好き嫌いをつけたがる「ニンゲン」たち。
花粉症だから、暑いから、虫がいるから、落葉が気になる、寒いのは好きじゃない…云々かんぬん。
なんとまあ、自分勝手であることよ。
気候変動により、それぞれの季節も本来の姿から変わりつつある今、真実を表す自然が不自然になったことで、人間の心も体も不自然になってしまったのだろうか。
自分たちで蒔いた種だと気づかずに。
「昔はよかった」「あのときこうだったから」などと嘆いている暇があったら、目の前に広がる風景、今このときの季節を愛でてみてはどうだろう。
(170717 第335回)