汲み出す一升より漏る一滴
岩崎弥太郎
三菱財閥の創業者、初代総帥の岩崎弥太郎の言である。
海運事業を興し、巨万の富を得た弥太郎も、そこに至るまでには数々の辛苦を嘗めている。これは、そんな中で得た教訓として弥太郎自ら肝に銘じていたことなのだろう。渡部昇一氏の『人生を創る言葉』より抜粋した。
従業員の1人が大金を持ち逃げしたことを告げに来た支配人に、弥太郎はこう言ったのだという。
「樽の上からすくって飲むやつは、たとえ一升飲まれても、三升飲まれても大したことはない。怖いのは、樽の底から一滴でも漏ることだ。そいつをよく注意してください」と。
これは何も、身近にいる卑怯者を暴き出そうというのではない。
蓄えについての教訓である。
大金を使うことに躊躇するよりも、締まりのない日々の散財を何とかしなさいと、言っているのだ。
どんなにたっぷり水を注いでも、
穴のあいたコップに水は溜まらない。
ひび割れた隙間から、じわじわと漏れていることに気づかなければ、いざというときに空っぽだったということもありうる。
汲む量は少なくても、穴があいていなければ、いずれ水は溜まる。
財に限らず、この教訓はどんなことにも通じるだろう。
締まりなければ、どんなに良い教訓も垂れ流すだけだ。
(170726 第338回)