日の差す方角ばかり探している人に、虹は見えないのです
お天気キャスターであり気象エッセイストであった倉嶋厚氏の言葉である。某新聞で見つけた。背後から射し込む光が、前方の雨粒に反射する虹の原理を説いたときの言葉だそうだ。
かの人は、数日前に虹の向こうの世界へ旅立ったという。享年93歳であった。
この言葉に出会った、まさにその日の夕刻。
西の空に沈む太陽を背に、ビル群の頭上にかかる虹を見た。
光りはあれど、虹と出会えるのはタイミング。
幸運が舞い降りるときというのも、そんなものかもしれない。
九州の五島列島を舞台にした、若い書道家の挫折と成長を描いたマンガ『ばらかもん』(ヨシノサツキ著)に、こんなシーンがある。
もがき苦しみながら書の道を歩む青年が、何度もチャレンジするものの、目標とする賞を取れない自分に自信をなくし、その道を諦めようとしたときに出かけた餅拾い祭りでのこと。
賞どころか餅さえも取れない主人公に、餅拾いのプロフェッショナル“ヤスばあ”がこう言った。
「上ばっかり見ちょるけんダメたいね。上から降ってくるち思うけど、その一瞬ば狙っても取れん。
ゆっくり待って、地面に落ちたっば、取っとよ。
下ば見っとよ。チャンスは意外にも下に落ちちょるけんね」
主人公は尋ねる。
「それでも、取れなかったらどうすればいい?」
「どうぞ、お先に」と、手を差し出すヤスばあ。
「人に取られたものを欲しがる必要はなか。諦める必要もなか。譲ってやって、もっと大きな餅ば狙え。譲ることと、拾うことを止めなければ、ほらこのとおり」
と、拾った大量の餅を見せる、ヤスばあであった。
倉嶋さんの言葉と出会ったとき、ふとこのワンシーンが浮かんだ。
虹が見たければ、光り差す方ではなく、その反対側を見てみるといい。
人は誰でも光ある方や上の方ばかりに目がいきがちだが、むしろ、その反対側にこそ、誰も気づかない幸運や喜びがあるものだと、倉嶋さんとヤスばあは言っているのだ。
(170809 第342回)