乳がいつも出るためには栄養を取らなければならない
史上初の大西洋単独横断飛行を成功させたチャールズ・リンドバーグの妻、アン・モロウ・リンドバーグの言葉である。夫の影響か、彼女自身も後にライセンスを取得し、女性飛行家となっている。
一主婦として、女性の生き方について美しい文体で書き記した『海からの贈り物』はベストセラーとなり、随筆家としても名を知られるようになった。その中の一文である。
生まれたばかりの赤ん坊は、母の乳を飲んで大きくなる。
今は簡易ミルクがあるし、時代によっては乳母の存在で命は救われたけれど、本来、母の乳がでなければ子は飢え死にしてしまう。
だから母は子を守るため、必死で栄養をとり母乳を出そうとする。
けれど、母体が健康でなければ、どんなに栄養をとっても母乳まで追いつかない。
子に与えたいと思うからこそ、母親は健康でいようと思うのだ。
与えたいと思っても、与えるものがなければ、共倒れするだけ。
与えるものがないなら、必要なものを必要なだけ補えばいい。
分け与えられるのは、満たされてこそ。
そしてまた、満たすためには壊れていない器が必要。
壊れたコップには水が注げないように、壊れた体ではどんなに良い物もとりこぼしてしまう。
「与えることに意味があっても、与えただけのものを補う源泉が何かなくてはならなくて、乳がいつも出るためには栄養を取らなければならない」
と言ったアンは、「与えるのが女の役目であるなら、同時に女は満たされることが必要だ」と言葉を継ぐ。
女性に限ったことではないだろう。
なんであれ、満たされなければ与えられない。
今なら、スマホやパソコンのような充電型の機械とでも言えば、分かりやすいだろうか。
(171122 第376回)