人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えているんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える
以前にも紹介したことがある、平野啓一郎の『マチネの終わりに』から抜粋した。ストーリーの序盤でこの言葉とばったり出会ったとき、この本はきっと何度も読み返すだろうと思った。今年の春にはじめて読んで、夏の終わりに再読。次に読むときはまた違った感動があるかもしれない。
過去は変えられない。
変えられるのは未来だけ。
多くの人はそう思っているだろう。
事実、起こった出来事は変えられないのだから。
しかし、事実は事実であっても、その事実に対する意味づけが変われば思い出は変わる。
辛い過去を背負った人が後に幸せを手にしたとき、過去は重要な飛躍のタネになっていることに気づく。
そのとき、自分の中の過去は変わる。
そして、もうひとつの過去の変化。
記憶にあるものの上に新しい出来事が加わって、それまでの思い出が違う色になる。
たとえば、大好きだった食べ物が、何かの拍子で吐き気に襲われたり発疹がでて食べられなくなってしまうように。
ひとつの記憶の上に新しい記憶がデコレーションされて、デコレーションされる前のようには思えなくなるのだ。
「過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」
主人公はそう言葉を継ぐ。
わかったようなわからないような。
だけど、これだけは言える。
過去は変わる、と。
今年ももうすぐ過去になる。
これまでも、そして今年一年の出来事が、新しい年の良いデコレーションになりますように。
(171229 第387回)