うきことの猶この上に積もれかし 限りある身の力ためさん
中江藤樹に師事した江戸前期の陽明学者、熊沢蕃山の歌である。戦国武将の一人、中山鹿之助の歌との説もあるようだ。時代的に考えれば、鹿之助の歌を聞き覚えた蕃山が、後に我が身と重ね合わせて歌ったのかもしれない。
誰でも困難なことや面倒なことは避けたい。
できれば、何ごともなく無事に過ごしたいとも思うだろう。
けれど、人生そんなに甘くない、ということもわかっている。
困難なことや面倒なことは生きていれば当然あることだし、ともすると人は困難なことや面倒なことをするために生まれてきたのではないかとも思うほどである。
「うきことの猶この上に積もれかし 限りある身の力ためさん!」
なんと勇ましいことだろう。
辛いことが降りかかることを良しとし、力の限りを尽くそうとする。
自ら試練を望む者はあまりいないと思うが、どうせ試練ある人生なら、これくらいの気概があったほうがいい。
一つの試練から逃れられたところで、同じ試練が姿を変えてやってくるのは早晩わかっているのだから。
人生は山あり谷あり。
小さい山、大きい山、草木が生い茂る山やゴツゴツした岩山まで、山にはいろんな姿形がある。
登るのは決して楽ではない。
楽ではないけれど、目指す頂きに登り着いたあとの爽快さや幸福感たるや・・・。それは登った者にしかわからないだろう。
あえて試練や苦難を引き受ける必要はないと思うが、自分が選んだ人生に付き添ってくる試練や苦難は喜んで引き受けようではないか。
逃げるから追いかけてくるのだ。
堂々と向き合えば、試練や困難も恐れをなして逃げていくにちがいない。
今年一年も、一生懸命生きるみなさまにとって、幸多き年でありますように。
(180101 第388回)