年を経るごとに、わからないことが増えていきます。それだけに生きているのが楽しい。知る喜びがたくさん残されているということですから
堀文子
何度か紹介したことがある画家の堀文子さんの言葉をふたたび。御年99歳にしてなお現役で、未だ知らないことを知る喜びに胸踊るという。絵と自然を拠り所とし、ひとり生きてきた孤高の人は、神の御心のまま命を全うする喜びを知っているのだろう。
何も知らなかった子供のころ、大人は何でも知っていると思った。
成長するにつれ、幼子は何も知らないのだと決めてかかった。
大人の世界に踏み込んだとき、これで一人前だと大手を振った。
そのうち、ドタンバタンとあっちにぶつかり、こっちにぶつかり…。
あげく、ドスンと穴に落っこちた。
真っ暗な穴の中は恐ろしく、右も左もわからない。
出口を探して、もがきにもがいた。
どれくらい経っただろうか。
ぼんやりと小さな光が射してきた。
光に導かれ、ようやく穴から抜け出した。
外の世界はこんなにも広く、光に満ちていたのだと涙した。
何も知らなかった子供のころは、世界が輝いて見えたものだ。
知らないことや不思議なことは、瞳を輝かせる。
輝く瞳は命のあかし。
曇りなき眼で見る世界は果てしなく、不思議で満ち満ちている。
この世界は知らないことだらけだと知ることで、命は輝きを増してゆくのだろう。
(180418 第422回)