もの言わぬ野菜の求め、これに繰り返し応えることで、美味みがうまれる
以前にも紹介したことがある料理家、辰巳芳子さんの言葉をふたたび。脳梗塞で倒れた父のために編み出されたという「命のスープ」は、数年前、映画「天のしずく」でも話題になった。愛情込めて丁寧に作られたものは、生命力を養うのだと辰巳さんのスープは教えてくれる。
植物を育てていると、何でも思い通りにはいかないのだということが身にしみてわかる。
手をかけたからといって、きちんと育つわけでもなく、かといって、ほったらかしでも育たない。
適度な手入れは必要だし、水やりも栄養も様子をみながら与える。
「おはよう、今日も元気だね」などと語りかけることも忘れちゃいけない。
ものは言わぬが、ちゃんと聞いているのだから。
何を考え、どうしたいのかを話すことは大事だと思う。
けれど、聞いている側は、語られた言葉だけがすべてだと考えるのはあまりにも早計ではないだろうか。
語られた言葉の向こう、語られていない言葉に真実が潜んでいるということもある。
言いたくても言えない、言う必要もないというところに、その人の本音が詰まっていることは多い。
もの言わぬ野菜は、どうしてほしいと思っているのか。
どんな風に調理されたら嬉しいのだろう。
辰巳さんは、野菜ひとつひとつに問いかける。
「どうしてほしい?」「あなたの良さを引き出すにはどうすればいい?」
問いかけながら手をかける。
その繰り返しが、野菜たちの持ち味を引き出し、極上のハーモニーを生む。
人間社会もそれと同じ。
この人はどうしてほしいのだろう、何を求めているのだろう、と心を配る。
料理人になったつもりで、対峙する人の旨味を探ってみよう。
(180726 第453回)