何を喜ぶかで、その人の人品がわかる
三味線方、一中節の12代目宗家、都一中氏の言葉を紹介。伝統芸能、とりわけ三味線の一中節は戦後の日本においては一部の人の鑑賞にとどまっているという。しかし、日本人なら一度は聞いてほしい。一中氏いわく、一中節は三味線音楽の中のラテン語だから、日本の音楽の原点とも言えるのではないか。
この言葉を聞いたとき、フランスの劇作家、マルセル・パニョルの言葉を思い出した。
「何を笑うかによって、その人の人柄がわかる」
笑うことは体にいいと言われる。
実際、笑うと気分は高揚するし、体温も上がる。
しかし、その笑いの正体が健全であるかどうかは疑わしい。
子供が無邪気に笑っている姿は、見ているだけで楽しくなる。
寄席や漫才などで、笑い芸の真髄にふれて大笑いするのも楽しい。
仲の知れた友人知人と朗らかに笑い合うのも至福の時だ。
伝統芸能である浄瑠璃や歌舞伎には「曽根崎心中」や「平家物語」などのように、悲運な話が多い。
主人公は、たいてい世間的には悪人と言われる人物で、今ならマスメディアで叩かれ、世間からは誹謗中傷どころかさんざんな扱いを受けることだろう。
それを取り上げるマスコミもマスコミなら、人の不幸は蜜の味とばかりに飛びつく世間も世間である。
面白がり、喜んで見る人がいるからマスコミは取り上げるのだ。
「浄瑠璃などが世間を賑わしていた頃は、人々に慈悲の心があったんです。たとえ主人公が悪人であっても、それは酷すぎるだろうというような内容では見向きもされなかった。だから、作者も悪人への慈悲心を込めた美しいストーリーを書いたのです」
伝統音楽を教えなくなってから、日本人の心から慈悲心が失われていったのではないかと一中氏は嘆く。
何に喜び、何を笑い、何に怒り、何を悲しむのか。
そこに、人間性が現れる。
(181012 第478回)