逆境が人に与える教訓ほどうるわしいものはない
シェイクスピアの『お気に召すまま』の第二幕、第一場から抜粋した。森羅万象、とりわけ人間洞察に卓越したシェイクスピアの名言は、いつの時代も色褪せない。人生は喜劇なんだと、あらためて思い知る。
このセリフを言ったのは、実の弟に追放された老公爵。腹心の貴族たちとアーデンの森で暮らしながら、宮廷の栄華な暮らしよりも森の生活のほうが幸せだと彼らに説くのだ。
理由は、
嫉妬偏執で満ちた朝廷よりも、森の中の方が安全だから。
たとえ真冬の風に肌を刺されようとも、
「これは追従ではない。ありのままの姿、この身のなんたるかを痛感させてくれる、忠臣の諫言だ」と、笑いながら言えるからだ。
そして、老公爵は名言を吐く。
「逆境が人に与える教訓ほどうるわしいものはない」と。
− 逆境は、一見、ヒキガエルのように醜く毒を持っているが、その中には宝玉が隠されている。
世俗と離れた森の中では、木々がものを言い、清らかな水が書物の役割をする。石や岩が説法をし、何もかもが教訓になる。
わたしはこの生活を変えようとは思わないよ。
と、言葉を継ぐ。
逆境に宝玉が隠されているとすれば、順境には落とし穴が隠れている。
悪魔は美しい姿を装って人に近づいてくるように、良い話には何かが孕んでいることがある。
乞食の姿をした神さまの話は世界中にあるし、悪い出来事と思っていたことが実は災難から身を守ってくれていた、ということもあるのだ。
大切はものや本質は目に見えない。
世間の常識や起きている出来事だけを鵜呑みにするのは危険。
それが何を意味するのか、じっくり考える癖をつけよう。
(181105 第486回)