反省はするな。向上心はいらない
タレントのタモリの言葉である。某新聞のテレビ番組の紹介欄で見つけた。タモリと一緒に司会を担当することになった社会人になって間もない若手アナウンサーが、挨拶に行ったときにタモリからこの言葉をもらったという。
反省もせず、向上心もいらないとは、なんたることか。
ふつうなら、そう思うだろう。
人生の大先輩であれば、社会に出たばかりの未熟な若者には、なおさら反省も向上心も大事だと教え説くはずである。
ところが、タモリはそうは言わない。
反省などしなくていい、向上心ももたなくていい、と。
そう言われた若いアナウンサーは、当然、戸惑った。
けれど、大先輩がそう言うのだから、きっと大きな意味があるにちがいないと、その真意を汲み取れる日を心待ちにしているという。
ちょっと前に紹介した。
「この世の中には、すぐにわかるものと、すぐにはわからないものがある」と。
森下典子さんの言葉だった。
本来なら、本欄で取り上げるべき言葉ではないのかもしれない。
言葉のまま受け取れば、およそ人道にはあてはまらないような気がするから。
しかも、その真意を汲み取れる日を心待ちにしている人がいるというのだから。
でも、あえて取り上げたのは、これこそ禅的であると思ったからだ。
反省する暇があるなら、向上心をもつ余裕があるなら、今この時に集中しろ。
そう受け止めた。
間違っているかもしれない。
だが、もしかしたら…とも思う。
反省と称して過去に囚われ、向上心という名のもとに未来を憂う。
タモリには、無駄に反省する姿が過去に、必要以上に向上心に燃える姿が未来に生きているように見えるのだろう。
多くの人間と関わってきたがゆえに、行き着いた境地なのにちがいない。
賛否両論はあると思う。
しかし、今一度じっくり心の裡をのぞいてみてはどうか。
その反省はほんとうに必要なのか。
その向上心は足かせになっていないか。
今するべきことに集中し、無我夢中で取り組んでいれば、思ってもみなかった境地に上り詰めることができるはずだ。
(181218 第498回)