他流の道をしらずしては、我一流の道、慥(たし)かにわきまへがたし
剣豪、宮本武蔵の『五輪書』から抜粋した。「風の巻」の冒頭である。地・水・火・風・空の5巻からなる『五輪書』は、武蔵が晩年、自らの生涯を通じて見出した「武士としてのあるべき生き方」を著した書物だ。武士だけでなく、人としていかに生きるか、という処世術でもある。
『五輪書』は、いわゆる勝者となるための兵法である。
それゆえ、戦うことを念頭に、自らを鍛錬する術を説く。
「他流の道しらずしては、我一流の道、慥かにわきまへがたし」とは、
簡単に言えば、
「人の行いを見て自らの行いを正せ」
ということだろう。
「風の巻」は他流の誤りを批判している章なのだが、その本意がこの冒頭の言葉に集約されている。
他者の誤りを知ることで、誤りのない道理がどういうものかがわかる、と武蔵は言っているのだ。
「賢人は敵から多くのことを学ぶ」と言ったのは、古代アテナイの喜劇作家、アリストパネス。
以前、本欄で取り上げたことがある。
敵に勝つためには、敵を知ることが大事。
といっても、単に、勝ち負けだけの問題ではない。
相手を知ることは、自分自身を知ることにもつながる。
相手の強みや弱みを知ることによって、自分が活かせる強みと、注意すべき弱みも見えてくるだろう。
そういえば、ちょっと前に紹介したムーミン谷の仲間、リトルミイがいいことを言っていた。
「自分を知るには、自分を知らない人たちと関わること。
見えてくるわよ、本当の自分が」
(たぶん、こんなセリフだったような…)
どんな人間も、意外な一面は必ずあるもの。
想定外の自体が起こった時、とっさに対処できるかどうかは、どれだけ自分のことを知っているかどうか、にかかっていると言ってもいい。
強みも弱みもあるのが人間。
強みをより強く、弱みを強みに変えられる工夫ができるように、他者から学べることは貪欲に学んでしまおう。
(190214 第513回)