本というのは、最も寡黙で最も忠実な友、最も近づきやすく思慮深い相談相手、そして最も忍耐強い教師である
米ハーバード大学の学長を40年間も務めたチャールズ・ウィリアム・エリオットの言葉だ。アメリカの高等教育を改革したことで知られているチャールズ・W・エリオットは、それまで必須科目だったものを自由選択制にして話題となった。彼のカリキュラム改革は、他大学にまで影響を及ぼしたという。そんな彼の言葉だけに、説得力がある。
何もしなくても、何も言わなくても、そばにいてくれるだけでほっとする。
そんな友人がいてくれたら、どんなに心安らかになれるだろう。
何も言わないけれど語りかけてくる、何もしないけれど影響を受ける。
そんなパートナーがいれば、自ら成長していけるかもしれない。
問いかければ答え、問わなければ何年も何十年もじっと黙って待ってくれる。
そんな師がいれば、紆余曲折ある道を歩いていくのも心強い。
本は、それらを可能にする。
人ひとりの人生には限りがあるが、本を読むことで何倍もの人生を生きることができる。
知り得ないことを知り、体験できないことを体験できるのが本の世界。
どんなにインターネットが普及しようとも、チャールズ・W・エリオットが言うような忠実で思慮深く忍耐強い相手は、そうそう見つからないだろう。
けれど本は、
憧れの偉人の、行ってみたい国の、神秘的な宇宙の、知りたい過去の、
そのどれもが手のひらにすっぽり収まり、開くたびに新しい喜びを与えてくれる。
過去の偉人たちが語りかけ、寄り添い、見守ってくれ、彼らの力を分け与えてくれる。
木から生まれた本は、植物のように呼吸をし、悠久の時を生きている。
ゆえに、懐が深く、広大無辺。
ネット社会で情報が溢れかえっている今、何をつかみ、何を信じていいかわからない人は、良質な本を一冊でいいから開いてみるといい。
ネット情報では得られない、濃密で深淵な世界を手に入れることができるはずだ。
一生を共にする、人生のパートナーとも言える一冊に出会えたら、どんなに幸せだろう。
(190708 第555回)