脳の学びの潜在力をもっともよく引き出すのが、独学なのです
脳科学者の茂木健一郎の言葉だ。以前、NHKの番組「100分de名著」で『赤毛のアン』の解説者として茂木氏が出演していたときのテキストの中にこの言葉があった。子供の頃から『赤毛のアン』ファンだったという彼が、脳科学者の立場からこの本を分析し、解説していた。『赤毛のアン』は教養小説なのだという。
幼子の成長には目を見張るものがある。
とくに、生まれてから3歳ぐらいまでは、見るのも追いつかないくらい成長のスピードが早い。
程度の差はあるにせよ、大人とは比較にならないほど瞬く間に新しいことを覚えてしまう。
好きと嫌いを体で感じとり、好きに向かってまっしぐらだ。
幼子の成長が早いのは、興味の対象に向かって自ら歩いていくからだろう。
少しの支えがあれば、見よう見まねで学習する。
それこそが動物の本能、独学ではないか。
「脳の研究をしている立場からすると、独学こそが本来の学びのあり方とも言えるのです。自分自身が興味をもっていることは、自分が一番よくわかっています。苦手なポイントも、テストで失敗する以前に自分で把握できます。何よりも、自分自身でカリキュラムを組むことで、興味の対象を深く掘り下げることができます」
自分自身で価値基準を設定して、それをクリアする努力を続けることが、独学者の条件だと茂木氏は言葉を継ぐ。
成長するにつれ、価値基準はどんどん自分自身から離れてしまう。
学校の成績、社会的な評価、他人の目……。
自分ではない、誰かが決めた価値が自分の価値だと勘違いして、それに合わせようとして苦しくなる。
それで本当に、自分の人生を生きていると言えるだろうか。
世間一般の価値基準や評価は、学びの潜在能力を低下させる。
これを知る者はこれを好む者に如かず。
これを好む者はこれを楽しむ者に如かず。
学びの本質は、それを楽しんでいるかどうかだろう。
(190922 第577回)