自分の境地に至るために、人生はある
東洋思想研究家、田口佳史氏の言葉をふたたび。昨年(2019年)1月、40号をもって終刊となった『Japanist』の連載インタビュー「学びのクロスロード」で、田口氏にとってもっとも大切なものとは? という質問に対する返答がこれだった。
25歳での不慮の事故をきっかけに、東洋思想に傾倒していったという田口氏。数々の伝記を再読するうち、偉人たちに共通するものが浮かび上がってきたという。
なぜ生まれてきたのか。
なんのために生きるのか。
人は、しばしばそう問いかける。
天に、あるいは自分自身に。
ヒントとなるのは、先人たちの生き様だろう。
「さまざまな偉人の自伝を読むと、それぞれに自分の氏素性を通り越して、独自の境地を拓いている。それがヒントになり、『そうか、自分が求める境地はこういうものだな』と思うようになります」
彼らの生き様から見えてきたのは、
自分が至りたい境地を目指して生きているということ。
自身の心を深く掘り下げ、心境を追求しているということ。
外部に左右されているうちは、それが見えてこないと田口氏は言う。
さまざまな手助けがあったとしても、
選択し、決断するのは自分自身。
生かされてはいても、生きていこうと決断するのは自分なのだ。
では、どうやって生きていくのか。
その問いの答えを先人たちは自分自身に問い続け、独自の境地を拓いていった。
天は自ら助くる者を助く。
サミュエル・スマイルズは言った。
「外部からの援助は、人間を弱くする。自分で自分を助けようとする精神こそ、その人間をいつまでも励まし元気づける」と。
援助が必要な人もいるから、ここは「過度な援助は人間を弱くする」と解釈したほうがいいかもしれない。
いずれにしても、自分の心に問い続けてほしい。
偉人になるためではなく、命をまっとうするために。
「なぜ生まれてきたのか」「なんのために生きるのか」ではなく、
どう生きたいか、どんな終焉を迎えたいかを。
自分の心境が見えてくるにちがいない。
(200118 第610回)