語らひを重ねゆきつつ気がつきぬ われのこころに開きたる窓
上皇陛下24歳のときの御製である。婚約内定後に婚約者の正田美智子様(現上皇后陛下)へ詠まれたという。2009年の御成婚50年目の記者会見で、陛下はこの御製にふれて結婚によって開かれた窓から多くのものを吸収したと語られたそうだ。山下景子氏の『大切な人に伝えたい美しい日本語』にそう書いてあった。
いつだったか、某新聞の日曜版に上皇ご夫妻の近況報告が記されていた。
東京・高輪にある仙洞仮御所へ移られたお二人は、夏の間、たびたびお庭を散策されていたという。
ご夫妻の出会いの地である軽井沢産のユウスゲや、復興の象徴として阪神大震災の被災地から贈られたヒマワリが咲き誇る中、幼少の頃からの遠い思い出を語らいながら庭園散策を楽しまれていたと。
上皇后美智子様の影響で花に関心を持つようになられたという上皇陛下。そのお二人が大切に育ててこられた花たちである。きっと、彼らもお二人の語らいに耳を傾けていたことだろう。
変転する時代の中にあっても互いを思いやり、手を取り合って歩まれてきた上皇両陛下の語らいの道。
仲睦まじいそのお姿は、理想の夫婦像としても国民の目に焼き付いているはずだ。
語らいを重ねて得た気づきによって、互いの心は開かれ歩み寄れる。
ささやかな語らいもあれば、重要な語らいもあるだろう。
ときには静観という言葉を介さない語らいもあるにちがいない。
たとえわからずとも、語らえば寄り添うことはできる。
どんな部屋も、いつも窓が閉じっぱなしでは空気も淀むし息苦しい。
大切な人と共に歩んでゆくためにも、心の窓は開いておこう。
涼やかな風が、たまった塵も埃も掃き清めてくれる。
窓の向こうに広がる新しい世界で、よりいっそう絆を深め高め合いながら共に歩んでゆけるはずだ。
今回は「身に入む」。秋の季語にある「身に入む」、「入」を「し」と読ませて「身にしむ」です。続きは……。
https://www.umashi-bito.or.jp/column/
(201012 第673回)