常に謙虚であるならば、褒められたときも、けなされたときも間違いはしない
ワーグナーのオペラで知られるバイロイト音楽祭。この劇場があるドイツ・バイロイトの地に眠る作家、ジャン・パウルの言葉である。絶筆となった『巨人』は音楽家マーラーの愛読書でもあったそうで、交響曲第1番の副題にも使われた。一時人気を博したものの、時代とともに読者が離れていくという憂き目にあったパウルだが、謙虚に書きつづけたからだろう。その地に銅像が立つほど後世にも影響を与えている。
褒められて嬉しくないはずがない。(たぶん)
けなされれば気分も悪くなるだろう。(おそらく)
豚もおだてれば木に登ると言うし、けなされた植物は元気なく枯れてゆくこともあるという。
人は感情の生き物だから、他人の一言が毒にも薬にもなってしまう。
さらりと受け流せたらとは思いつつ、心の波は荒れたり凪いだりとせわしない。
とりわけネット社会の現代は、賞賛も誹謗中傷も勝手に押し寄せてくるから、予防線は張っておいたほうがいいだろう。
宮沢賢治は
「雨ニモマケズ 風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ
……ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ」
と言い遺していった。
それも死後にわかったこと。残された手帳に書いてあったという。生前はほとんど知られることのなかった作品を、詩人の草野心平の尽力によって後世に遺されたのだ。
褒められて傲慢に名声を振りかざしたり、苦にされて落ち込み創作をやめていたなら、
今の「宮沢賢治」はいただろうか。
マーラーに『巨人』を書かせるジャン・パウルはいただろうか。
稲穂も人も、実れば実るほど頭を垂れてやるべきことに身を沈めてゆくのだろう。
今回は「月影(つきかげ)」を紹介。月の影であると同時に月の光でもある月影。とりわけ歌に詠まれる月影は、夜空からふりそそぐ月の光を言うのでしょう。続きは……。
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(201104 第678回)