良いことばかりは悪すぎる
サッカージャーナリストの大住良之氏の発言である。サッカーマガジンの編集長を務める傍ら、女子サッカーチームの監督や日本サッカー協会審判員などを歴任するサッカー指導者でもある大住氏。ジャーナリストという立場から見たスポーツの世界をこう解釈するが、スポーツに限らない不変の真理だと思う。
今や社会現象となっている漫画『鬼滅の刃』。大正時代を舞台に、主人公の竈門炭次郎が鬼殺隊の仲間たちとともに凶悪な鬼を退治していくこの物語。
ここには「良いことばかりは悪すぎる」のだと感じさせる場面がたびたび出てくる。
鬼と対峙するごとに成長してゆく鬼殺隊員たち。
悪鬼と化した元人間たちの我欲にまみれた結末。
それらすべて、想念が生み出した結果である。
登場人物すべてが哀しみを背負い、背負った哀しみに決着をつけようと、善になり悪になり、邪になり正になりながら己と向き合っていく。
人間とは、かくも脆くはかなく、いとおしい存在だと思わずにはいられない。
生きていくというのは、なんとも面倒なことだが、これほど興味深いものはない。
先人たちが残した無数の言葉、伝え残されている伝統文化、新しい技術やサービス、組織や制度など、目に見えるものだけでも膨大な数の人間の足跡が広がっている。それ以上に、この世界には人間の想念が織り重なっているはずだ。
できることなら悪いことは避けたいと思う。
良いことがありますように、とも願うだろう。
幸せや豊かさを求めるのは誰しもおなじ。
けれど、病気をしてはじめて健康のありがたさがわかるように、悪いことがあるから努力して良くなろうとするのだし、人間的成長もあるのではないか。
ホイットマンも言っている。
「寒さに震えた者ほど太陽の暖かさを感じ、人生の悩みをくぐった者ほど生命の尊さを知る」と。
それに、
人生良いことばかりではおもしろくないってことは、「鬼滅」人気が証明している。
今回は「月影(つきかげ)」を紹介。月の影であると同時に月の光でもある月影。とりわけ歌に詠まれる月影は、夜空からふりそそぐ月の光を言うのでしょう。続きは……。
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(201116 第681回)