日本人として覚えておきたい ちからのある言葉【格言・名言】
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紺碧の将

新しい布が古い布より強いとかえって傷つけることになる

ある文化財修繕者の言葉

 この言葉に出会った時、なるほどそうかといたく感心した。故・河合隼雄と小川洋子の対話集『生きるとは、自分の物語を作ること』の中に見つけたのだが、京都の国立博物館の文化財を修繕する人が言ったそうだ。
 

 布を修理する場合、修繕するものとされるものの力関係に差があるのは良くないらしい。
 それを受けて、河合は臨床心理学者の立場からこう解釈する。

 

「だいたい人を助けに行く人はね、強い人が多いんです。
 そうするとね、助けられる方はたまったものじゃないんです」
 
 使命感に燃える人は、燃えているだけに熱い。
 弱っている人には熱すぎて、近寄られるのも怖いらしい。
 たぎる炎で微かな余力さえも燃やされてしまいそうだから。
 
 水中で溺れている人を助けようとするとき
「自分も飛び込んで助けに行くことはNG!」
 という第一の心得がある。

 自分の身の危険はもちろん、相手のパニックを倍増させてしまう恐れがあるからだ。

 

 溺れている人は、テレビドラマにあるようなバシャバシャともがいているわけではなく、実際は静かに溺れているそうで、体の緊張から垂直に沈んでゆくという。
 だから、溺れている人を助けようとするときは、体が水に浮くような浮力物を与え、体の力を抜いて水平になることを伝えるのがいいらしい。
 水に体を預けろと。
 
「どんな人が来られても、その人と同じ強さでこっちも座ってなきゃいかんわけですよ。年寄りの方もいれば子供もいる。いろんな人が来られますからね」

 

 カウンセラーというのは、こうじゃないとやっていけないのだと河合は言うが、カウンセラーに限ったことではないだろう。
 
 自分の強さが誰かを傷つけていることはもちろん、自分自身を傷つけていることもある。
 ほんとうは心も体も弱り切って、悲鳴をあげているかもしれないというのに。
 
 体は硬直していないか。
 心は凪いでいるか。
 呼吸は止まっていないか。

 

 力を抜いて、全身を時の流れに預けてみよう。
 今この時を感じてみよう。

 

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(201121 第682回)

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