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紺碧の将

年暮れぬ 春来べしとは 思ひ寝に まさしく見えて かなふ初夢

西行

 保延6年10月15日、鳥羽院下北面兵衛尉佐藤義清は出家し名を「西行」と改め遠く陸奥の地へ旅立った。立場上心は都へ残し、不穏な情勢を外側から眺め、冷静な目をもって折々の意見を歌にのせ、友人たちと歌の往還をしていたという。

 初めて訪れた北国の山河は、都慣れした西行にとって決して優しいものではなかっただろう。歌集『山家集』には、その頃の歌も多く残っている。音羽山、難波、逢坂山なども歩いているから、いつどこで詠んだのかはわからないが、冒頭の春の歌の一首目にこの歌がある。
 
 歌の前に「立つ春の朝よみける」とあるから、詠んだのは立春か。
 ということは、2月はじめの頃だろう。旧暦では新年にあたる。
 
 ―― 年も暮れ、新春がくる喜びを思って寝ていると、初夢に霞たなびく春の景色を見た。目覚めてみれば、なんと夢とおなじ霞たなびく朝ではないか。
 
 と、西行は歌う。
 
 どうやら当時から、こうであってほしいと一心に思い描いて眠れば夢で見るという考えがあったようだ。
 
 今も昔も、人が思うことは変わらない。
 年の暮れには一年を振り返り、塵や埃を払い清めるし、
「どうか来年はいい年になりますように」と、願わずにはいられない。
 その年が災難の年であればあるほどに。
 
 なにごとも、陽極まれば陰となり、陰極まれば陽となる。

 

 それさえわかっていれば、何も恐れることはない。
 春は必ずやってくる。
 一心に願えば思いは叶う、と信じていれば。
 
 どうか、新しい年が心穏やかな良い年でありますように。

 

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 今回は「うつし世」を紹介。うつし世とは、生きている世界、現世のことです。周知の通り「現」とは「うつつ」、夢と現実を対比した「ゆめかうつつか」という表現はよく知られています。続きは……。

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(201231 第692回)

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