打球を上げようとは思っていない。いいフォームで打っていれば、勝手に上がってくれる。
ベーブ・ルースの再来と言われる、米大リーグ・エンゼルス、大谷翔平選手の言葉だ。投げてよし打ってよしの二刀流は、もはや当たり前。走塁でも見せ場をつくる三刀流で世界を沸騰させる掟破りの若者は、日々豪快なプレーで先人たちの記録を更新しつづける。その秘訣はこの言葉にあるのだろうか。某新聞の記事にあった。
「好き」という気持ちが、これほど能力に影響するのだということを、大谷選手のプレーで教えられた。
「好き」の前に、常識は存在しない。
好きだから、こうしたい、ああしたい。
あんなことも、こんなことも、どこまでできるか試したい。
本来だれもが持っていたであろう好奇心と向上心。
「評価」や「競争」の餌食にさえならなければ、健康にすくすくと育つはずなのだが・・・。
新聞によると、大リーグのプレー解析システム・スタットキャストが弾き出した大谷選手の「バレル率」、ロングヒットが出やすい打球の角度と速度の比率は、2位のタティス(パドレス)の21.3%を大きく引き離した25.9%と、断トツのメジャートップを誇っている。(2021年7月7日付)
渡米から3年。発芽した才能の芽は、大地でのびのびと成長しているようだ。
立ち並ぶ巨木たちを、もろともせずに。
人間だから、まったく結果を気にしないわけではないだろう。
いい成績、いい結果が出て、嬉しくないわけがない。
実際、少年のような笑顔で喜ぶ大谷選手を何度も見た。
「失敗してもいい。自分がメジャーの育成プランが好きで、自分がどうなるか見てみたかった」
あるときの取材で、失敗することを考えなかったかと聞かれた彼は、そんな風に答えたそうだ。
常識を前にすれば、失敗も怖い。
しかし、常識の存在しない「好き」という気持ちには、失敗は糧にこそなれ、恐れるものではないのだろう。
競争ではなく、ただ自分を高めるために、白球に挑む。
――いいフォームで打っていれば、勝手に打球は上がってくれる。
そう信じて、バットを振りかぶる。
結果よりも、まず姿勢。
弓道の「射品・射格」のように、呼吸を整え、姿勢を正す。
ひとつひとつの所作をきちんとこなしていけば、結果はあとからついてくる。
弓道家の柴田猛範士も、「〝勝ちたい!〟と思えば思うほど緊張して、失敗する」と言っている。
無欲になることで緊張感はプラスに変えられ、緊張や欲望をコントロールして集中することが見た目のカッコよさにつながり、的中率を上げてゆくのだと。
「好き」だから、人の目は気にしない。
それよりも、自分が恥ずかしくない、満足のいく仕事を、楽しんでやりたい。
それがいいフィームなら、打球はきっと上がる。
今回は「もてなす」を紹介。 日本の代名詞とも言われる「おもてなし」。相手を思いやり、慈しみの心でお迎えする。客人へのあたたかい心配りが「おもてなし」の基本ですが、一歩間違えると、心配りが過剰になったり、客人の言いなりになってしまうこともあります。続きは……。
(210711 第731回)