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紺碧の将

未開の酋長の目に映った現代人の滑稽な姿

file.142『パパラギ』ツイアビの演説集 新潮文庫

 

「初めて文明を見た南海の酋長ツイアビの演説集」というサブタイトルが示すように、まったく現代文明の恩恵を受けていない(毒されていない?)人から見た文明人パパラギ(※この本の中では主にヨーロッパ人を指す)が、彼らにはどのように映るのか、たっぷりと描かれている。

 少し抜粋してみよう。

 ──パパラギは寝ている間も丸い金属と重たい紙のことを考えている(つまり、お金のことだ)。

  ──パパラギは胴と太股にたくさんのむしろや腰布をつけている。ことに女は、魚の骨と針金とひもとで、とてもかたく作ったむしろが首から腰まできて、胸と背中でしめてある。このむしろに押しつけられて、女の乳房に生気はなく、もはやひとたらしの乳じるも出ない(胸と背中でしめているむしろはブラジャーか?)。

 ──パパラギは時間が好きだ。日が出て日が沈み、それ以外の時間は絶対にあるはずはないのだが、もっと時間をくれと言う。彼らは柔らかいヤシの実をナタでみじんに切るのとまったく同じように、一日を切り刻む。切り刻まれた部分には名前がついている。これはとてもこんがらがっていて、私にはまったくわけがわからなかった。

 ──パパラギはいろんなことをいっぱい考えているにもかかわらず、遙かなことについては何も考えない(その結果、現代の環境破壊なのだろう)。

 ──パパラギはいろいろな物を作り出す。私たちにはとても作れない、とても理解できないものばかりで、私たちの頭には、ただ重たい石としか思えない(こう言われたら、どんな発明も無用の長物だ)。

 ──束になった紙もパパラギに一種の酔いと興奮をもたらす。タパの草で作った、薄くて白いむしろを想像するとよい。折りたたんで、ばらばらにし、またたたんで、その一枚一枚にぎっしりと字が書いてある(新聞のこと)。

 こんな描写が延々続く。ツイアビ酋長に悪意はないが、それだけに素朴な疑問の矢が読む者の胸にグサリと突き刺さる。

 今まで当たり前のように思っていたことが、こうまでズケズケと書かれると、滑稽に思える。さしずめ、現代のIT技術者はツイアビ酋長から見たら、噴飯ものの滑稽さだろう。

「そんなことを言っているから、おまえたちは文明が発達せず、今でも貧しいのだろう」と反論するのは簡単だ。しかし、ここがとても重要なのだが、彼らは自分たちが貧しいとは露ほども思っていないのだ。

 この本は、捉え方によって、薬にも毒にもなる。今さらツイアビ酋長のように生活を変えるわけにはいかないが、かと言って、完全に無視することもできない。なぜなら、ツイアビ酋長の言っていることは、いちいちごもっともなことであるから。

 

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