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お茶目な粋人のちょっとおせっかいな美談

file.184『清談 佛々堂先生』服部真澄 講談社

 

 タイトルにもある佛々堂先生とはいかなる人物か?

 本書には4つの短編が収められているが、そのいずれにも佛々堂先生の描写がある。それらを総合すれば、以下のようになるだろう。

・古美術、骨董、現代美術、はては自然界の姿まで、極上のものに通暁する審美眼と見識をもつ。

・高齢のはずだが髪はたっぷりとあり、胸板が厚く、疾風のように歩く。年配者にありがちな、腰から尻にかけてのたるみもない。

・くたびれたジャンパー、すり切れた綿シャツ、綻んだデニムに身を包んでいる(ただし、よく見ると、海島綿の上物である)。

・携帯電話はけして持たない。留守宅にもファクシミリはない。連絡事項があるときには、墨でさらさらと書きつけた巻き紙が旅先から届く。

・乗っている車は荷物がところ狭しと積み込まれている古いワンボックスカー。数着分の着替えが、窓際にハンガーで吊るされている。

・「まいどっ」が口癖で、関西きっての数寄者だが豪放磊落。諸芸に通じているのに尊大なところが微塵もない。

・少々おせっかいで厄介な頼みごとをされることが多い。そっと裏から手を回してスマートに解決していく。

・著名な芸術家や料理人、天下に名を知られた茶人など、超一流の面々と交誼があり、彼らに頼られている。

・仏のようだから佛という字をあてたという噂もあれば、何にでも一家言あってブツブツ文句をいうから、そんな異名がついたのだともいわれている。

 ……と、こんな感じである。つまり、自分が切れ者だと少しも感じさせない本物の粋人なのである。そういう意味では、利休の対極にあるといえる。

 そんな主人公を描けるのは、作者が諸芸全般に通じているからでもある。服部真澄氏は、国際諜報をテーマにした作品でデビューしたが、本書はまるでタイプが異なる。それだけに作者の守備範囲の広さに驚かされる。福井から都心に移築した古民家に住んでいるということもそうだが、時代を超えて輝きを放ち続ける美しいものを愛していることがわかる。

 本書が気に入ったのなら、続編の『わらしべ長者、あるいは恋』も読むべし。読書の歓びに浸れることまちがいなし。

 

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