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荒唐無稽を通り越した三島由紀夫の美意識

file.196『美しい星』三島由紀夫 新潮文庫

 

 

 20代のある時期、三島の純文学にシビレた。しかし、非の打ち所のない(ほぼ)完璧な文章がだんだん鼻につくようになった。

 しかし『美しい星』は、三島らしい美意識が昇華した作品でありながら、どこかに間の抜けた空気があって、親しみが薄れることはない。

 近代以降の日本の小説はリアリズムを是としていたが、この小説はぶっ飛んでいる。なんと主人公の大杉一家は自分たちを宇宙人だと思い込んでいるのである。しかも主の重一郎は火星人、妻は木星人、娘の暁子は金星人、息子は水星人という荒唐無稽さ。それにもかかわらず、読みすすめるうち違和感がなくなっていくのは、なんとも不思議な魅力である。

 その理由のひとつは、彼ら自称宇宙人が、ふつうの人間と同じ容姿と能力を持っているからであろう。けっして人間離れした能力を持っているわけではない。ほんとうに彼らが宇宙人なのか、怪しいとさえ思ってしまう。それでもグイグイと作品に引き込まれる。特に、後半の大論争は圧倒的な知的興奮をかきたててくれる。三島は『カラマーゾフの兄弟』の大審問官のくだりを愛読していたらしいが、その影響が色濃く垣間見える。

 その大論争は、自分を白鳥座第六十一番星から来たと言い張る羽黒助教授と重一郎との間で交わされる。彼らはあくあくまでも「宇宙人」の立場で俯瞰し、核兵器を持ってしまった人類の未来を予感させる。

 読者の一人ひとりは、この大論争の「対象」である。だから他人事とは思えない。ロシアや北朝鮮、イランのふるまいなど最近の世界情勢を鑑みると、空想ではなく現実の話だと思えてくる。

 人類を弁護する重一郎の弁がふるっている。人間を滅ぼすには惜しい、五つの美点があるからと。

・彼らは嘘をつきっぱなしにした。

・彼らは吉凶につけて花を飾った。

・彼らはよく小鳥を飼った。

・彼らは約束の時間にしばし遅れた。

・そして彼らはよく笑った。

 これらは美点なのか欠点なのか判然としない。しかし、これこそが三島の人間観であろう。人間の気まぐれこそが地球上に存在する所以であると言っているのだ。

 

 三島はボディビルで体を極限まで鍛え、皇統を畏敬し、ノーベル文学賞の最短距離にいた。その末路が切腹というのは、できの悪い小説のようだ。私は、市ヶ谷の現防衛省にある三島割腹自殺の部屋に行ったことがあるが、日本刀を振り回したときに傷つけられた柱の痕跡を見たとき、ゾッとした覚えがある。

 そんな三島は、じつは日本空飛ぶ円盤研究会の会員だったという。それが救いでもある。

 

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