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紺碧の将

ポジティブなニュースを発信しよう

2021.07.26

 いよいよ東京オリンピックが始まった。これまで開会式をきちんと見たことはほとんどなかったが、今回は特別。開始数分前にはテレビの前に陣取り、その瞬間を待っていた。

 式のすべてが終わる前に眠くなってしまったため、途中までしか見ることはできなかったが、清々しい想いで胸がいっぱいになった。1年延期され、直前まで反対意見が轟々と渦巻いていたなかでの開催だ。大会関係者や政府関係者、ボランティアなど、多くの人たちの尽力があったことは想像に難くない。彼らの努力を思うと、自然に胸が熱くなった。

 新型コロナが流行してからというもの、世の中にあふれるニュースはネガティブ一色になった。さまざまな人たちの悲惨な状況が連日報じられ、政府への批判、罪のなすりつけ合いもとどまるところがなかった。あげく陰謀論やデマの数々……。もちろん、玉石混交、なかには真実もあったはずだが、正直、私は「もう、いいかげんにしてくれ!」と思った。会社や友人の悪口や愚痴ばかり言っている人は一種の環境汚染だと思っているが、世の情報空間がまさにそれだった。この1年半におけるネガティブな情報の総量は人類史に例がないほど多いだろう。もちろん、それは個々人が気軽に意見を発信できるようになったからだ(かくいう私もその一人ではあるが)。

 だからこそ、極限まで切磋琢磨したアスリートたちが一心不乱に闘う姿を全世界に発信できるというのは、願ってもないチャンスである。平常時のオリンピックとはケタ違いの意義がある。今この時、これほどまとめてポジティブなニュースを世界に発信できる機会がほかにあろうか。

 開会式の日の読売新聞に浅田次郎氏が寄稿している。最後にこう結んであった。

 ――静謐なスタジアムと明瞭な映像は、文学の永遠に表現しえぬ肉体の尊厳を、つぶさに伝えてくれるはずである。――

 さすがは小説家、核心を突いた表現をする。

 自然の営みであるサイエンスに対し、人間の手になる究極の表現をアートというならば、スポーツは人間が己の肉体を通して表現する芸術行為といえる。そういう意味で、アーティストとアスリートは同列線上にある。実際、最新の映像でアスリートの競技をリアルに見ると、これぞまさしくアートと呼ぶ以外ない。

 菅総理も小池都知事も、そしてすべての大会関係者が素晴らしい仕事をしてくれた。素直に讃えたい。

(210726 第1086回)

 

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