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紺碧の将

外国人に語る日本のエッセンス

file.104『雪月花の心』栗田勇 祥伝社

 

「日本人は留学生もビジネスマンも、海外で自国のことについてスピーチする機会があってもほとんど話すことができない」と聞く機会が多かったことから、「自分もそうかもしれない。それなら自分も学びながら日本の良さを発信してみよう」と思ったのが『Japanist』を創刊するきっかけだった。その後10年間、発行を継続し、そのおかげで日本についての認識を深めることができた。また、その延長として、英語対訳を載せた『日本を語ろう』という、3分間スピーチ例文集なるものも作った。

 本書も同じような主旨の本だ。富士通グループの「外国人経営者向けセミナー」で講演した内容を一冊の本にまとめたもので、発行されたのは昭和62年。かなり前の本だが、普遍的な内容ばかりだから現在でも通用する。

 日本の特長を要約しているうえ、67枚の図版によって視覚的にも理解が深まる。見開きで日本語と英語を併載しているので、日本について外国人に紹介するにはぴったりだ。

 内容は多岐にわたっている。いわゆる「広く、浅く」だが、日本を知るきっかけとしてはじゅうぶんだろう。短い言葉で本質を言い表すのは存外難しいものだ。

 ざっと内容を列記すると……、日本人の自然観、和歌と俳句、『源氏物語』、伊勢神宮と出雲大社、天皇、お花見とお月見、初詣、地鎮祭、日本人の宗教的感情、日本人の労働観、西行・芭蕉・明恵・良寛、仏教伝来と伝統文化、枯山水、鎖国の歴史的評価、茶の湯、遊女の風俗、歌麿の女性表現、柔道と柔術の違い、東洋の死生観など興味深いテーマがずらりと並ぶ。

 あらためて思う。いいことも悪いことも含め、日本という国はかなり変わっている、と。長所の裏返しが短所になると考えれば仕方がないともいえるが、相反する素質をたくさんもっているのだ。勤勉で清潔好きで協調性がある一方、管理されることを好み、前例にとらわれる。言葉に対して深い感性を有するがゆえか、忌み言葉に代表されるような自縄自縛に陥る。なんでも水に流す寛容さがあると思えば、同調圧力が強く、枠からはみ出る人を攻撃する傾向がある。自然災害を淡々と受け入れるのに、まだ起きていない未来については悲観論に傾きやすい……。

 米国の地理生物学者のジャレド・ダイアモンド氏は、その国民の資質は、長い歴史を通した食料獲得の違いによって形成されると言っている。日本人は地球上のどの国よりも稲作に依存した国。一方、欧米諸国は牛羊の牧畜と小麦栽培を主としてきた。稲作は地域の住民といい関係を保っていなければできないが、牧畜はより良い場所を探して個人の個々の判断で移動することを求められる。また、小麦栽培は稲作ほど隣人との協調関係を求められない。したがって、日本人は恒久的に同じ場所に住んで隣人たちと良好な関係を築くことをよしとし、欧米人は個人主義になりがちだという。それらが、マスクを受け入れるか否かの違いになって現れているという理論だった。

 それも一理あるだろうが、それだけでもないような気がする。なぜなら、新型コロナウイルス禍において欧米の多くの国は自由を大幅に制限するロックダウンを発令したが、日本は基本的に「お願いベース」で対処してきた。どちらが自由を求める傾向が強いか、一概に言えないのではないか。

 話が脱線してしまった。本書を読んで、あらためて日本人とはなにか。どうしてこのような国民性が形成されたのかを考えるのも一興ではないかと思う。

 

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