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紺碧の将

だけど、スイーツは愉しみ

2022.02.14

 タイトルの「だけど」は、前回書いた「欲しい物がなくて困った」を受けている。

 一日も欠かさず酒を愉しむ人間だが、私は甘党でもある。ガリガリと手動式のミルで深煎の豆を挽いて淹れたコーヒーとスイーツを愉しむのも日常のならわしだ。

 最近、気に入っているのが、エシレ(ECHIRE)のフィナンシェとYATSUDOKIのアップルパイ。

 エシレとはフランス中西部の村の名前である。その地で産される発酵バターを使った焼き菓子が、じつに美味だ。

 初めてエシレのフィナンシェを見た瞬間、これは美味い! と感じた。食する前に感じるのはよくあること。人間の直感は信用できる。

 次に、指で触ってみた瞬間も「美味しい」と感じた。

 食べると、さらに納得。自然な味覚が口の中に広がり、得も言われぬ気分にさせてくれる。よくありがちな、酸化した変な臭いもいっさいない。

 リーフレットに、「バターはテロワール(土壌)の産物です」と書かれていた。ワインはテロワールとはよく聞くが、たしかに牛の乳で作られるバターもそうにちがいない。

 エシレ・バターの原料として使われるのは、工房から半径50km以内の酪農家の牛だけ。一頭当たりの最低限の放牧地の面積が決められるなど、厳しい制約がある。日本でも岩手県のなかほら牧場がそのような取り組みをしている。

 エシレのカヌレは1個500円近くするが、午前10時半頃には完売してしまう。だから、いまだ食べていない。午前中に売り切れてしまうのに補充しないのは、大量に作れないということだろう。

 YATSUDOKIは、八ヶ岳山麓で育まれた自然の恵みを使ったスイーツ。全国にいくつかの店舗があるが、アップルパイは各店舗で焼いているという。1個399円。コストパフォーマンスでいえば、かなり安いと思う。

 香ばしさが大人の風味を醸し、コーヒーにも紅茶にも合う。ときどき、無性に食べたくなり、近くの店で求めてしまう。

 ちなみに、YATSUDOKIとは「おやつどき」の意味だそうで、八ヶ岳と末広がりの「八」を掛けているという。

 必ずしも必要ではないのに、ずっと存在しているというところにスイーツの本質がある。

 スイーツに関して、エシレやYATSUDOKIの規模は、ドンピシャなのかもしれないと思った。個人店ではなく、かといって大規模でもない。

 個人店では良質の材料を安定的に仕入れるのは難しいだろうし、大量生産・大量販売をしないと組織が維持できない大企業では、売り切れても補充できない商品は作りにくいだろう。

(220214 第1115回)

 

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