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紺碧の将

鵜にはなりたくないものだ

2022.07.04

 岐阜城から眼下を見下ろすと、長良川が悠然と流れているのが見える。長良川といえば鵜飼。テレビで見たことはあるが、ナマで鵜飼を見たことはなかった。

 鵜飼はいろいろなところで行われているが、長良川の鵜飼は鵜匠によって行われている。鵜匠とは宮内庁式部職として正式に任命された国家公務員で、長良川の鵜匠は6人しかいない。1300年の歴史をもつが、基本的に一子相伝で、長男しか継ぐことはできないという。一子相伝とは、学問や技芸などの師がその奥義、秘法、本質を自分の子供のうち一人にだけ伝えるというもの。門外不出どころか、一族のなかでも長男以外には秘密にされている。

 鵜飼とは、遡上してきた鮎を鵜によって捕獲する伝統技術。信長もおもてなしの一環として鵜飼を披露していたという。長良川で使われている鵜はすべてウミウ。3〜4年間、生活をともにして飼い慣らす。鵜は〝川のギャング〟とも呼ばれるほど雑食で、なんでも食べてしまう。ま、それを言うなら人間以上のギャングもあるまいが。

 地元の人から「鵜飼によって捕れた鮎はふつうの鮎の4倍くらいの高値で売れ、ほとんどは銀座に行きます。では、なぜ高いのでしょう?」という質問があった。

 う〜むと考えたあと、「活け〆ですか?」と答えた。

 正解だった。鵜は鋭いくちばしによって一瞬のうちに鮎を殺してしまう。おそらく当の鮎も自分が死んだことに気づかないほどに。昔、マンガで「おまは死んでいる」というセリフがあったが、まさしくそれである。気がつかないうちに死ぬのだから肉が締まって柔らかい。鵜に殺された鮎の体にはくちばしの痕がある。

 長くこの地に滞在した芭蕉は、次のような句を詠んでいる。

 

  おもしろうてやがて悲しき鵜飼かな

 

 だって、鵜の首は縄で縛られていて、小魚以外は飲み込めないようになっている。いくらなんでも、せっかく飲み込んだ好物の鮎が喉を通らず、人間様に横取りされてしまうなんて……。空腹じゃないと狩りをしないから、つねに空きっ腹にしているという。

 他の生き物に対する人間の所業はすべて〝自分たちの都合〟。まぎれもなく鵜飼はそのひとつ。長く続く伝統技能だから後世に伝えてほしいとは思うが、鵜の立場になって考えると、複雑ではある。鵜飼に使われる鵜に生まれなくてよかったと思う。

(220704 第1135回)

 

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