水石は神が造ったアート
東京都美術館で開催された水石展を見てきた。
水石とは山水景情石の総称である。「情」という文字が入っているように、物質としての石を超え、精神性に重きを置いた世界観である。
石は自然のまま。人間が手を加えることはない。そんな一塊の石から大宇宙を感得するものである。
水石がなぜそれほど高度な芸術趣味に昇華したかといえば、禅や茶の湯と結びつき、高名な文人墨客たちに愛されたがゆえである。
私も自宅に2つ飾っているが、自然の山が凝縮されて生活空間にあるような感懐を与えてくれる。その周囲にはなるべく物を置かないよう努め、埃や塵をはらっている。そのため、その場所はつねに清浄だ。
拙著『紺碧の将』で、北政所を訪れた信玄が、家康が北政所に贈った水石を見て会話をするシーンがある。
と聞いても、老人趣味と笑う人もいるだろう。事実、会場に来ていたほとんどは年配の男性だった。
が、ここを強調したいのだが、知的な雰囲気を漂わせている紳士然とした人が多かった(ような気がした)。ただの石を見て、そこに自然の風趣風韻を感じ取り、無限の世界に心を馳せることができる人が雑な人であるはずがない。
私もかくありたいと思った。
水石と掛け軸を組み合わせたものが好み
丹波紫雲石の佇まいと軸が調和する
神居古潭石。銘は「月華峯」
佐治川石。風雪に耐えてきた貫禄を感じる
貴船糸掛石と梅の軸がこの季節にピッタリ
鞍馬石。銘は「比叡残照」
(240222 第1211回)
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