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解釈が人間を劣化させる

file.195『反解釈』スーザン・ソンタグ 高橋康也・出淵博・由良君美・海老根宏・河村錠一郎・喜志哲雄訳 竹内書店新社

 

 20代のころ、スーザン・ソンタグに憧れ、スルメをしゃぶるようにして難解な著書を読んだ。とびきり美人のうえ頭脳明晰(シカゴ大学→ハーバード大学院→パリ大学。専門は哲学)、小説家・戯曲家・演出家というマルチアーティストでもあり、しかも内容がラディカルで、難解だったことが私を揺さぶった。

 ソンタグといえば、まっさきに『ラディカルな意志のスタイル』をあげるべきだろう。あるいは斬新な写真論、その名も『写真論』、自身のガンとの闘いを通して得た感懐をもとに展開した『隠喩としての病い』、シャープなエッセイ集『土星の徴しの下に』も捨てがたいが、ここでは『反解釈』をあげたい。

 

 芸術の劣化が著しい。先人たちがほとんどのことをやってのけてしまったのだから仕方がないといえば仕方がない。しかし、そうなってしまったもうひとつ理由は、鑑賞者にこらえ性がなくなったことではないか。その証拠に、美術館で作品を鑑賞する前に、解説文を読むことから始める人が多い。自分の感性を信用していないのだ。他人の解釈なくして芸術を味わえないのだろう。演奏する前に作品の解説をする人も多くなった。若い世代には2時間、映画館でじっくり鑑賞するのがつらいと言う人が多いという。そんな時代にだれが分厚い小説を読むだろうか(実感がこもっている)。

 ソンタグの「反解釈」はそういった諸々に対し、難解で鋭利な言葉をもって批判している。だれにもわかるように、という安易な姿勢はみじんもない。胸のすくような創作活動である。

 しかし、ソンタグの書物がそこそこ話題になった時代はまだいいともいえる。これからますます人間にこらえ性がなくなり、「1分で理解できる世界の名作文学」「30秒で鑑賞できる名作映画」の類が市場をにぎわすにちがいない。やだやだ、そんなのは「芸術の内部で糞を撒き散らすようなもの」(ソンタグの弁)である。

 

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