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紺碧の将

神戸「ル・アン」へ

2007.12.01

 半年ぶりに京都を訪れた。メインの用件は、いよいよ西原金蔵氏の本を作ることになったので、その打ち合わせのためと来年4月号に予定しているワサブローさん(シャンソン歌手)の取材である。

 西原金蔵さんはパティシエとして全国的に名を知られているが、今までに著書を出していない。彼のレシピ集や作品集であれば、少なくとも全国のパティシエが手にしたいと熱望するはずだが、彼らしいと言おうか、今までは出版社のオファーに対して承諾しなかった。西原さんは、本を出すことが自分の仕事の本分とは思っていないからだろう。だからこそ、新規出店の誘いにも首を縦に振らず、テレビ番組の取材にも応諾しないのである。

 そういう西原さんを口説き落とした? のは、他ならぬ私である。

「高久さんが書いてくれるなら、」と快く承知してくれた西原さんご夫妻の期待に応えるには、「いい本」を作る以外にない。たぶん、1年半くらいかかるかもしれないが、じっくり熟成した、後世に残るいい本を作りたいと決意を新たにする高久であった。

 さて、2日目は神戸へ行った。須磨にお住まいの小坂洋子さんと「デート」をするためだ。

 小坂さんの実父はジャズを日本に紹介した草分けであり、『あなた』で大ヒットした小坂明子さんは親類だそうだ。小坂さんご自身は須磨でカフェを経営しながら自宅で菓子作り教室を開き、ニホンテリヤという絶滅に瀕した稀少品種の犬を増やそうという運動もなさっている。元祖モダンガールというと年齢の察しがついてしまうが、神戸の生まれらしく瀟洒な方である。そして、なにより嬉しいのは『fooga』を愛読してくれていること。メールでのやりとりの中で、ぜひ神戸に、というリクエストをいただいていたので、足を伸ばしたわけである。

 昼食にと案内されたのは、須磨離宮に隣接し、迎賓館として内外のVIPをもてなしてきた洋館を改装した「ル・アン」というフランス料理店。キャパは100人以上とかなり広いが、広い邸宅にありがちな散漫な印象はない。隅々にまで配慮が行き届き、高貴な気品を漂わせていた。気が横溢している館とそうでない館は、入ってすぐにわかるものだ。

 供された料理は、まさに入魂の「作品」と思えた。豊後昌幸シェフは神戸北野ホテルで腕を磨いたというが、こういう風に作り手の意気が乗り移ったような料理にはなかなか出会えない。まさに至福の時であった。これから彼がどのようにして自分の料理を磨き、自己到達を重ねていくのか、とても楽しみである。

 食後は高台を降り、須磨寺を散策した。奈良の寺のように時間が止まったかのような静謐さが、雑念だらけの私を荒い清めてくれたような気がした。

(071201 第24回 写真は邸宅レストラン「ル・アン」 )

 

 

 

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