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紺碧の将

悪しきお手本

2013.05.09

東京都庁 私がもっている唯一の資格が、運転免許である。職業としている広告の企画・制作や出版は、いわばドンパチやり放題の世界で免許などまったく必要ない。

 ただし、厳密にいえば、珠算6級という輝かしい資格もあるが、それはまったく自慢にならないとある人から笑われたことがある(しかも、3回目の試験でようやく合格という体たらく。冷や汗)。

 その運転免許の更新で都庁を訪れた。1日1200人をさばくという窓口だけあって、驚くほどシスティマティックにできている。まるでベルトコンベヤーに乗せられたような感覚。わずかのムダも許さないといった緻密さだ。鼻くそをほじくりながらやっている地方の免許センターとはちがうとあらためて思った。30分の優良運転者講習(この「優良」の字を強調したい)を聞き終えるとすぐに新しい免許証を交付された。

 効率のいい仕事ぶりは公務員とは思えないほどだったが、やはり職員が多過ぎるという印象はぬぐえなかった。

 私は、東京都庁は悪しきお手本だと思っている。「さあ、どんどん新しい庁舎を建てましょうね」という無言のメッセージが全国に伝播し、その仕事ぶりとはまったく比例しない、豪華な庁舎が全国各地に雨後のタケノコのようにできてしまった。あたかも、新しく立派な建物じゃないと公務員はいい仕事ができないのですと言わんばかりに。

 ここに2000年1月10日付けの日経新聞のスクラップがある。「自治体ビッグバンが始動」と題された記事だ。その中で、東京都庁と大ロンドン庁の比較をしている。

ロンドン市庁舎 当時、東京の人口は1162万人、欧州最大の都市・ロンドンは700万人。

 都庁で働く職員は約19万人。ブレア政権のもと、新しくテムズ川河畔に建てられたコクーン型の大ロンドン庁(右写真)はたったの400人!。大ロンドン庁直轄の4外局を合わせても6万人程度。

 一方、東京23区と都下市町村の合計職員数は11万人に対し、ロンドン市33区では25万人。住民により身近な基礎自治体を重視した人員配置になっている。

 その後、ロンドン市がどうなったかわからないが、少なくとも、コントロールタワーは数百人規模でじゅうぶんということがわかった。

 また、アメリカに、サンデー・スプリングス市という世界初の完全PPP都市を実現した自治体がある。ちなみに、PPPとは公民連携(Public-Private Partnership)のことをいう。

サンデー・スプリングス市の人口は約10万人だが、市の職員はわずか4人しかいない(通常、日本の自治体の職員数は人口の100分の1という目安があるので、日本の自治体であれば、1000人程度の職員がいることだろう)。他に議員6人、警察官120人、消防士90人がいるだけで、市の業務はすべて民間企業に委託している。それにより同規模の自治体の半分の予算で済み、行政サービス満足度は高いと言われている。

 日経新聞の同記事には、「国が地方に一律に手をさしのべる護送船団方式が深刻な財政難で沈みつつあるいま」とか「日本は同じ問題に国、県、市町村が全部関わっており、二重行政ムダが目立つ」などの表記があるが、いったい13年間、日本の政治家はなにをやってきたのだろう。

 いろいろ問題があるとはいえ、やっぱり英国や米国は民主主義・自由主義の本家だけあって、やることが大胆だ。まったく真似る必要はないと思うが、日本の改革のスピードの遅さに辟易する。

(130509 第422回 写真は東京都庁とロンドン市庁舎)

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